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非常勤講師時代(2007~2021)と人前で話すことを振り返る -経験ゼロから伝え方を工夫し続けた話-

人前で話すことなんて生まれてから勤め人の間は徹底的に避けてました。する必要もないし目立つ理由もなかったですから。

なんとこと言っている余裕は駆け出しフリーランスにはなく、目の前にお仕事があれば「できます」となるわけです。30年以上避けてきたことなので、なかなか大変でしたがいつものように結果的に役に立っております。何か参考になれば。

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【非常勤講師への挑戦】

大学の非常勤講師なったのは知り合いからの紹介で、授業の担当者が辞めて欠員が出たため声をかけてもらいました。内容はパソコンを使った授業で、フリーランスとして固定収入が欲しかった私は、いつも通り「やれますよ」と即答して始めることに。

といっておきながら、最初の授業は緊張のあまり10センチ先しか見えないような状態でした。一番前に座っている学生の顔見えません。下を向きながら資料についてブツブツ話して終わり。

知識も引き出しも少なく、何をどう教えればいいのか、学生がどこで困っているのかもつかめずひどい授業だったと今でも思います。90分も人前で話すことって本当に大変なので、正直なところ「やるんじゃなかった」と思ってましたが、食べていかないといけないの根性で乗り切るしかないわけです。

やることはとにかく勉強する。

使うツール、用語、話し方、間の持たせ方、などなどです。何もない状態からなので、良いと思うことは何でもやりました。本もたくさん読みましたし、ツールはいろいろ使いながらメモして細かく教えられるようにする、詰まったところは詳しく話せるようにする、授業のイメージトレーニングをするとか。必死。

毎週授業をやっていく中で課題を見つけては改善し、学生と対話しながら少しずつ「教える」ということが分かってきました。学生から質問を受けるようになってからは、「少しは教えられるようになったかな」と実感できて嬉しかったのを覚えています。その質問にも即答するのは難しいわけでして…「次の予定があるから!」とか言って次回までにこれまた必死に調べる。

【インストラクショナルデザインとの出会い】

教職課程を取っていなかったというか、取る気もないというか、頭にもなかったので教えるスキルはゼロからのスタートでした。どうすればいいか悩んで「大学の先生はどう授業を作っているのか」といった本を読んでいたときに出会ったのが、インストラクショナルデザインでした。ADDIEモデル(分析→設計→開発→実施→評価)がとってもしっくり来たんですよね

大学院での研究やGoogle アナリティクスでのサイト改善と全く同じ発想だったため、スムーズにに理解できたのと同時に世の中のほとんどのことはこの考え方で乗り切れるかな?とも思ってます。これを知ってからは学生の声を拾って授業に反映し、また実践してみるというサイクルを回し続けました。買った本はこのあたり。

授業でやっていたこと

  • 授業の初回でアンケート:意気込み、知りたいこと、苦手なことなど
  • 授業の中間でもアンケート:学生が慣れてくると発展的な意見が増えて質が上がっていく
  • 集計結果をその場で共有:コメントして結果を授業に組み込んでいくことなど説明
  • 提出された課題にはフィードバック:良い点、改善点、次にやると良いこと
  • 学生に共通の改善点はまとめて話す:全体の傾向を伝えて自分の立ち位置を知ってもらう
  • 次の課題は前回のフィードバック踏まえて:学生の伸びを確認してフィードバック
  • 最終回にもアンケート:来年受講する人へのコメント、森野へのダメ出しなど

ADDIEモデルのまんまです。

学生も自分の意見を聞いてくれるとわかるとどんどん発言しますし、前回の課題がクリアできると楽しくなってくるので前向きに取り組んでくれます。このあたりは授業以外というか仕事する上での根本的なスタイルになってます。

とにかく聞く。困ってることはないか、やりづらいことはないか、わからないことはないか、などなど。聞けば課題が出てきますのでそれを改善する。改善すれば進んでいきますしやればできると思うようになってくる。

結局のところ、なにごとも楽しく取り組んでもらわないと進まないんですよね。

【「当たり前」を丁寧に伝えることの難しさ】

教えることで気づいたのは、「細かく丁寧に伝えることの大切さ」です。自分にとっては当たり前でも、学生にとっては初めて聞く内容かもしれません。そのため、きちんと確認して理屈も含めて教えるようにしていました。これを知っているだろうと思っている前提よりも5歩ぐらい手前から考えてました。

この経験はブログを書く際にも活きてまして、Google アナリティクスの使い方を説明する記事でも「学生に教えるとしたらどう書くか?」というイメージで構成することで、伝わりやすく書けるようになったのではないかと。「こういう質問が出るかも」「こういう前提を入れておかないと伝わらない」と、自然と噛み砕いて伝えられるようになったのは教える経験のおかげです。

家電製品の「こんな時」の最初に「電源は入っていますか?」があるのと同じと気づいてからはマニュアルなどを研究というか、どういう観点で書いているのかが気になりまして、マニュアル作成の方法ともかじってました。

伝わらないのは伝えるほうがさぼっているから、と思ってます。

【人前で話す経験】

人前で話すのは最初はやっぱり緊張しますが、やればやるほど慣れますし、られるものが本当に多いんですよね。

あれこれと本を読んで準備ばかりしていても実際に話してみないとわからないことがたくさんありますので、中途半端に方法論を勉強するよりも、とにかく人前で話してみるほうが早いです。5分くらいのライトニングトークでも十分です。場数を踏むことで自分なりの話し方や準備の仕方が自然と身についてきますし、前述のADDIEモデルを回していけばいいです。やって、振り返って、直して、またやる。

「準備ができてから…」なんて言っていたら、たぶん一生その日は来ません。いきなり本番でいいんです。うまく話せなかったらどうしよう、って不安になるかもしれませんが、聞いている側も完璧なんて求めてませんし、伝えようとする姿勢のほうがずっと大事です。

私も最初はガチガチに緊張していましたが、続けていくうちにセミナー講師として話す機会をいただけるようになりました。今では7時間ぶっ通しのセミナーも何とかなってます。もちろん、毎回スムーズにいくわけじゃないですが、それでも終わったあとの達成感と「次はこうしよう」という気づきがあるだけでも、やってよかったなと思えるんです。

なので、人前で話す機会があれば、どんどんチャレンジしてみてください。

【他にもいろんな恩恵が】

授業管理システムであるMoodleのサポートをするようになったのは、もともと自分が教員として使っていたのがきっかけでした。ある日、講師控え室で他の先生と話していたとき、「大学でMoodleを本格導入するから、サポートできる人がほしい」と声をかけられたんです。システムの構築やサポートなんてやったこともなかったので、「いや、自分には無理かもな…」と思ったんですが、それでも「やります」といつも通りの動き。

ちょうどその頃、システムに詳しい知り合いがいたので何とか助かりました。最初から今までおんぶにだっこです。この人の助けがなかったら、正直、途中で詰んでたと思います…。

そんな中で、特に忙しくなったのがコロナ禍です。Moodleを初めて触る先生が一気に増えて、「ログインできません」「課題の出し方がわかりません」といった基本的な操作の相談がどっと押し寄せたんですよね。教材づくりは他の部署が担当していたため、主に操作まわりのサポートに専念し、対面での説明ができない状況を補うためにPDFマニュアルに加えて動画マニュアルも作成しました。

文章だけだと細かいところが伝わりにくいですし、「ちょっとくどいかな」くらい丁寧に説明するのがちょうどいいんですよね。このころは人前で話すことには慣れていたので、動画で説明することにもそれほど抵抗はありませんでした。

今ではわかりづらそうなことがあれば、さっと動画を撮ってクライアントに渡すこともあります。

だから、何でもやったほうがいいんです。結果的に役立つし未来の自分を楽にしてくれますから(くどすぎる)。

次回は情報発信について書こうと思います